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テクノ企業法務日誌35 製品の安全性に問題? さて、どうするか?   弁護士大澤恒夫

* 選別化の進む市場経済

  日本の景気回復も本格的になっていたということで、この夏、ゼロ金利も解除になりましたが、巷の声を聞いていますと、「不景気だ〜、不景気だ〜」という大合唱がまだ続いているような感じもします。IT産業と関連する分野は間違いなく売上を続伸させ、前年比で数十%もUpという会社も珍しくありません。他方、昨年以上に不景気の波に襲われている企業も沢山あって、要は市場での選別が一層激しくなってきているんでしょうねえ。「勝ち組」とか「負け組」なんてのは嫌なコトバですが、生き残りを掛けた闘いがまだまだ続いて行くんだろうと思います。

* 製品安全と企業存亡

  生き残りといえば、数ヶ月前に起こった乳製品の食中毒問題は、われわれが見ていても背筋が凍るほど恐ろしくなりました。もちろん食中毒も怖いですが、背筋が凍ったのは、あれだけの巨大企業の屋台骨にアッという間に大きなヒビが入りそうになった、その事の成り行きです。自動車メーカーの欠陥車リコールの問題も同じです。企業内外の状況が悪い方に転がり出すと、音を立てて雪崩を打つ・・・。

 かく言う私は、IT関連分野でありますパソコンの周辺装置などを開発・製造している会社で総務部長をしております。当社の製品は人が口に入れる物ではありませんし、それ自体が身体に危険を及ぼすようなものではありませんが、中には高電圧・高電流で発熱するようなものもあり、製品の安全性については特に気を使わなければなりません。乳製品や自動車リコールの事件は決して他人事ではありません。当社は今年売上を相当に伸ばしていますが、厳しいリストラも続いており、ぎりぎりの人手で事業を運営して行かなければならない訳で、すこし気を抜けば大変なことになる可能性もあります。

* 不安の予兆 

 先週、当社製品の電源部分からすごい発熱があって心配だというユーザーからの問い合わせがあり、早速当社の技術員が現地へ行って状況を見てきました。その製品は1年程前からパソコン・ユーザーに好評を頂いている周辺装置で、インターネット通販やパソコンショップなどを通じて既に1000台くらい販売されています。技術員の報告では、通常でも電源部は発熱しますし、取扱説明書にも発熱についての記述があるのですが、今回の件では確かに通常の発熱よりも高いと感じられ、その原因は詳しく検討しないと分からないということで、電源部全体を新しいものに交換して、問題の電源部分を持ち帰ったということです。

 そうこうする内に他にも似たようなクレームがユーザーから持ち込まれ、当社技術部としてもなんかこれは製品に欠陥があるんじゃあないかと不安になってきたようです。

* Web上のUsers Forumでキャンセルの声が

  この電源発熱問題は瞬く間にユーザー間にウワサ話として広がったようで、インターネット上のあるWebサイトに開かれているユーザーの意見交換の場にも、「ちょっとは常井が異常ではないか。これでは長時間使えない。がっかりした。キャンセルしたい。」というような意見が掲示されたりするようになりました。だんだんユーザーの意見が過激になってきて、大変なことになってきました。

 電話での問い合わせも頻繁になってきました。電話などで問い合わせがあった場合には、今のところ「一部のユーザーさんで高熱が出る現象が確かにありましたが、個々のユーザーさんでの環境的な問題かも知れず、現在検討中です。」と口頭でお答えすることにしていますが、この先どのように対処してよいか、困ってしまいました。

* 顧問弁護士に相談

  昨年たまたま社長が知人から紹介されたとかで、Lさんという弁護士に法律顧問になってもらいましたが、Lさんは初めて会ったときに「何事も問題が生じる前に、また問題が生じてしまったときはそれが大きくなる前に、できるだけ早く相談してください!」と言っていました。早速Lさんに相談をしようということで、Lさんに相談することにしました。

 Lさんは現物の状況を見た方がよいし、これまでの経過や技術的な資料なども会社のほうにそろっているはずなので、Lさんの方から当社に出向くとのことでした。

*  技術的所見は

 Lさんに来てもらって、当社の社長、営業部と技術部の部長及び担当者、それから私が参加して会議を開きました。

 「で、今回の電源部の発熱は異常、あるいは危険な発熱なんですか?」

 「いや〜、正直言いますとやっぱりちょっと異常ですね。触ると火傷しそうになる位ですし、プラスチック・カバーが変形していたケースもありました。」

 「それはまずいですね。で、その原因は?」

 「どうやらバッテリーパックの構造に若干問題があって、まれではあるんですが充電中に半分ショートした感じになって、その状態が長く続くと相当に発熱するようです。」

* 社内を二分する意見対立

  今後の対応策について、会社の中では意見が二分しています。
  技術部は、今回の製品の電源は稀とは言えやはり危険で発煙や火災に至らないという保証はないので、何らかの方法で販売済みの全製品について修理交換を行うべきではないか、という意見です。

  営業部は、異常発熱は稀にしか起きないのだから、何も問題を大きくしなくても良い、費用だって相当かかってしまうのだから、クレームのあったユーザーだけ対応すればよい、という意見です。

* リコールすべきか

  「Lさん、こういうふうに社内でも意見が二分しているのですが、どうしたものでしょうか?」

  「製品に問題が発見され、被害が拡大する前にこれからどのように対応するかという段階が一番悩ましいものです。まだ被害が現実化していないし、何も問題を広げなくてもいいではないか、という雰囲気がどうしても出てきます。でも、製品の欠陥が原因で現に火災事故などが発生して大変なことになれば、議論の余地無く、製品のリコールということになるでしょう。」

  「リコールというのは法律上何か規定があるんですか?」

  「例えば消費生活用製品安全法という法律がありまして、その対象になっている製品、例えば乳幼児用ベッド、登山用ロープ、家庭用圧力鍋などですが、これらの製品が一定の技術基準に適合せず危険な場合に、通産大臣がこの法律に基づいて危険防止命令を発してメーカーに当該製品の回収を命じるというようなことはありえます。自動車や食品なども同様です。本件のバッテリー電源などはこれらの規制対象製品ではありませんから、現状では特定の法令のもとでリコールが命じられるということはないと思います。」

  「だったら、やっぱりリコールは大げさだからやりたくない」と営業部は言います。

* L弁護士の意見

  Lさんによれば、対象事項のはらむリスクの程度、対応措置による内外への影響、要する財政的負担などを総合考慮して、対応策を考えることが必要だという意見です。

  本件のリスクは、万が一とはいえ火災や人身傷害が生じる可能性があるのであれば大きなリスクをはらんでいると言わざるを得ないと考えられます。

  また、眼を社会の動向に向けてみますと、現在、経済産業省などでは、現状での規制対象製品でなくても事故の再発や拡大の可能性が大きい場合に製品のリコール等を命じたり、工場への立ち入り検査等ができるようにすべきではないか、という検討がなされていますし、消費者保護基本法でも事業者の危険防止義務がうたわれています。それに日本でも最近はアメリカなどと同様の公正さに対する意識が高揚し、事業者が事実を知りながら隠したり、十分な説明をしなかったり、対応がまずかったりというような場合に、社会的に大きな非難にさらされ、消費者がそっぽを向いてしまい、市場からその製品が駆逐されてしまうことすらあります。他方、問題が生じた早い段階ですばやく適切な措置を取れば、むしろ社会的にも「あそこは誠実な企業だ」と評価が高まることが期待されます。

 対応措置に要する費用ですが、本件製品の欠陥部分について外注先や部品メーカーに責任があれば、それら企業の協力も要請して適正な負担になるように交渉すべきです。なお、PL保険ではリコールの費用は対象外とされているものが多いのではないかということです。当社のPL保険がどうだったか、調べてみます。いずれにしても早急にコストの試算をしてみたいと思います。

  「このように考えますと、本件ではやはり不具合をユーザーに告知して、無償で修理交換することを考えたほうが良いのではないかと思います。」

* 具体的にどうするか

  「では、具体的にどのように対応したらいいでしょうか?」

  「まず、ユーザー登録などで販売先が分かっているケースがありますよね。そのような販売先にはダイレクトメールで今回の不具合と当社として無償で修理交換することを申し出るべきでしょう。」

  「ユーザー登録していないお客さんが多いようなのですが・・・」

  「販売してもらっているPCショップなどにも告知文を貼り出してもらったほうが良いでしょう。」

* Web上の告知など

 「そのほかにはどうでしょう?」

 「新聞に告知文を掲載するという方法もありますが、本件製品はほとんどがインターネットユーザーで使われるものということですから、インターネット上での告知で良いのではないかと思います。確か当社のホームページもありましたよね。」

 「はい。ホームページに掲載したいと思います。それで思い出したのですが、あるWebサイトのユーザーズ・フォーラムで当社発熱問題が議論されていまして・・・」

 「そのフォーラムでも当社の告知文を掲載してもらえば効果的でしょう。雨降って地固まる、で、ユーザーも当社の誠実さを評価してくれると思いますよ。告知文については案文を作ってもらえれば、拝見して手を入れてみます。」

 「是非、そうしてください。」

* 虚偽風説への対抗とWeb掲示板の削除要請

 「Web上の告知でまた思い出したのですが、今朝例のユーザーズ・フォーラムをチェックしたのですが、ひどことが書いてありまして・・・」

 「というと?」

 「当社の製品はほかのものもいいかげんな設計で欠陥だらけだ、不買運動を起すべきだ、というような調子なのです。これはもう一般の消費者ではなくて他の商売敵のしわざではないかと・・・何とかならないでしょうか?」

 「もし競争事業者が虚偽の内容をWeb上で流したとなりますと、信用毀損・業務妨害といった刑事問題にもなりえますし、『競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為』は不正競争防止法の禁止する不正競争行為ですから、その差し止めや損害賠償などを請求することができます。ただ、Web上でそのような行為が行われた場合の問題は、たいがい匿名や偽名で行われるため行為者の特定がかなりむずかしいということです。あまりにもひどい場合には、警察に告訴してしかるべき捜査をやってもらうことも考えられます。」

 「そうなるとかなりやっかいですね」           

 「それから、Webサイトの管理者に当該の文章の削除を要請することが考えられます。Web上の掲示板などの運用規則には、一般に信用毀損・業務妨害などに該当する文章は削除できるという規定が入っており、これに基づいて削除してほしいと要請することです。ただ、管理者は他方で掲示板への投稿者から『表現の自由』を侵害されたとクレームされる可能性もあって、板ばさみになるかもしれません。いずれにしても書かれている内容が違法なものかどうかを検討する必要があります。」

* 経済産業省の事故情報Webサイト 

 「ところでいろいろな製品について事故が生じていますが、それらの情報を収集して広く一般に公開しているインターネットサイトがあります。」

 「へえ〜、どんなサイトですか?」

 「経済産業省の製品評価技術センターという機関のサイトで『事故情報のページ』( http://www.jiko.nite.go.jp )といいます。事故の内容や原因の検索ができ、それからメーカーが行った製品事故に関する社告も検索して見る事ができます。パソコン関係もいくつかあります。これを見ると、やはり電池や電源関係が多いようですね。更に、事故原因の究明を依頼することができる機関を検索して捜すことができるなど、非常に参考になります。」

* 逃げ腰でなく、正面から

  これまで製品安全の問題と言いますと製造物責任に焦点が当てられ、予防的な観点としては取扱説明書や警告表示をどうすべきかといった点が主に議論されてきました。そのような点ももちろん重要で引き続き注意をしなくてはなりませんが、それだけでは足りないことが良く分かりました。不具合が発見されてからの対処方針の立て方や具体的な対処方法などを誤ると、社会的に大きな非難が加えられ、一夜にして信用を大きく損なう危険があることが最近の種々の実例で示されています。逃げ腰ではなく、正面から問題と向き合わなくてはならないことが実感できました。

 当社も今回の発熱問題をきっかけにして、より適切な対応をしてゆきたいと思います。

                                                                             (35話:おわり)

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