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テクノ企業法務日誌 36 千変万化の事業再編と法的スキームのあれこれ 弁護士大澤恒夫
*再建支援を要請されて
当社は企業向けのIT関連コンサルテーションやシステム開発、パソコン周辺装置の開発・販売などを行っている中規模の会社です。ここのところIT関連ということで事業の成績もまずまずで、ゆくゆくは株式の公開もしたいと考えています。私はこの会社の総務部長をしておりまして、社内外のいろんな問題が持ち込まれてきます。実は先週末、当社の社長の知人というAさんから「パソコン関連の事業をしているY社という会社があり、技術的には大変優れたものを持っているのだが、資金繰りが苦しいらしく、再建を支援してやってもらえないか」という話が持ち込まれました。IT関連といってもやはり選別は進んでいるようです。
非常に急いでいるということでしたので早速、この土日でY社の社長や財務担当の役員などと面談し、概要を聞きました。Y社はパソコンの周辺装置の開発をメインにしているようですが、バブル期に不動産投資をしたツケが重く圧し掛かり、最近新製品として投入した無線LAN装置の販売が伸びず、いよいよ資金繰りが厳しきなってきた、場合によって3ヶ月先には資金ショートが生じうる、ということでした。当社の技術者の話では、Y社の製品は技術的には優れており、当社もY社の協力が得られれば当社製品やサービスの強化も出きるだろうということでした。当社社長から「どのような支援ができるか、当社の得るべきメリットを踏まえ、前向きに検討せよ」との指示が出されまして、総務部長の私もY社支援プロジェクトに加わることになったのです。
ただ、倒産寸前の企業にかかわると厄介なことになりそうで・・・・
*顧問弁護士に事前の相談
で、当社の顧問弁護士のLさんが日頃から「何か事が起こってからではなく、起こる前に相談してくださいね」と言っていたのを思い出しまして、早速、事前の相談をすることにしました。Lさんは会社更生事件などで倒産企業を別の企業に引き継いでもらって再建を図る仕事もしていると聞いていましたので、その辺の雰囲気も教えてもらいたいと思います。
緊急案件の相談ということで月曜の電子メールでLさんにミーティング要請をしたところ、Lさんは最近も出張続きのようで、火曜の朝7時半から9時半までの出張前の時間でどうかとの返事でしたので、とりあえずその日時に事務所を訪問しました。
「いや〜、世の中激変してますねえ。今回のような話を沢山聞きます。ただ、漠然と再建を支援してくれと言われても、すぐにハイ、分かりましたとは言えませんよね。まずもって、基本的に検討すべき事柄があると思います。」
「そこのところを具体的に・・・」
*初めに検討すべき基本的事項
Lさんによれば、相手先の製品、技術、サービス等の事業の側面の検討のほか、次のような基本的事項について慎重に情報収集し検討すべきだということです。
@ 相手先の最新の商業登記簿謄本、会社定款、会社案内など、
A 相手先の資産・負債〜最新のものを含む過去3年ないし5年程度の決算書、付属明細書、監査法人の監査を受けている場合はその報告書
B すべての不動産に関する最新の不動産登記簿謄本、工業所有権の登録証
C 過去1年の資金繰り実績表及び今後1年程度の資金繰り予定表
D 第三者との重要な契約関係
E 信用調査会社による最新の相手先の信用情報
このような基本的情報を分析する中で、資産・負債・営業状況を把握し(現状把握)、何ゆえ今日の資金繰り逼迫の状況に陥ったのか(原因の分析)、その原因に対する対策にはどのようなものがありうるのか(ありうる対策の検討)、相手先を支援することによる当社にとってのメリットにはどのようなものが期待できるのか(当社のメリット)、当社にとってのリスクは何か(当社のリスク)、考えうる法的スキームにはどのようなものがあるか(再建策をサポートする法的スキーム)、などを検討して擦り合わせながらプロジェクトを進めて行くべきだということです。
現時点ではまだY社からこのような情報・資料は貰っていませんので、早速要請しようと思います。
*情報開示と秘密保持、検討目的の限定
なお、相手先のこのような内情を知るための資料にはY社にとって秘密にしておきたい情報も相当に含まれているでしょうし、資金繰りに困って相談していること自体も秘密にしてもらいたいということでしょう。これはもっともなことで、秘密の保持に遺漏がないように当社サイドとして注意しなくてはならないということです。そのために秘密保持契約を予め結んでおくことも相手の立場からすれば必要なことで、当社としても前向きに検討する以上は協力すべきだということです。
また、本件の場合、Y社はパソコン周辺機器の分野で競争事業者ということになりますから、技術的な秘密情報の扱いには特に注意が必要で、できればこの段階では相互に秘密の情報は開示しないようにしたほうが良いというのが、Lさんのアドバイスでした。
さらに、前向きの検討といっても現段階で支援を約束できるものではなく、あくまでも可能性の有無の検討を目的としているということになりますので、秘密保持契約等の合意文書を作成するときもそのような観点での留意が必要で、作成の際あらかじめLさんに相談して欲しいとのアドバイスでした。
*法的倒産手続を通じたM&Aとそのメリット
「ところで、企業の再建を支援するという場合、いろんな方法があるということですが、その辺のことを少し説明してください。」
「そうですね。極端な話、相手先企業が倒産状態になっている場合でも、その事業を生かして再建することが社会経済的な観点からも望ましいようなケースで、支援企業としてもメリットがあるということであれば、法的な倒産手続の中で再建・支援スキームを構築して行くことも可能です。」
「Lさんも倒産事件でそのような再建をしたことがあるということでしたね。」
「私が関与した会社更生事件での例ですが、支援企業から事業管財人を派遣してもらい、負債は現実の営業や財産の状況に合わせて相当圧縮減額することとし、最終的には更生会社の旧資本は100%減資し、支援企業が新資本を全額出資して更生会社を100%子会社にするというスキームで債権者の了解を得たという事案や、事業の生きている部分を負債と切り離して営業譲渡という形で支援企業ないしその関係会社に買い取ってもらい、その代金の範囲で旧債権の弁済をし、残った部分は解散して清算するという方式をとった事案などがあります。負債の圧縮や切り離しなどについて債権者が了解してくれるかどうかがキーポイントとなりますが、これは資産・負債や事業の状況などから客観的に適正と考えられるスキームを築きながら説得に当たります。これらを法的な倒産手続の中で裁判所の監督の下で行いますので、後になって不公正だという非難を受ける危険がないという意味では、確かな支援方法だとも言えます。それに倒産手続を通じて行うということは、資産・負債の全貌がはっきりするうえ、今言いましたように何らかの方法で現在の負債を圧縮したり、切り離しを行うということですので、後になって知らない負債が圧し掛かってくることもありませんし、過去の負債の全てをずっと引きずらなくても良いというメリットがあります。」
*任意整理と再建支援
「なるほど。資本参加で100%子会社にする、あるいは価値のある事業について営業譲渡を受ける、という方法ですね。これを倒産手続を通じて行う訳ですか。」
「特別清算手続や今年4月から施行された民事再生手続の運用の中で同じようなことを行うことも考えられますね。また、負債や営業の状況、今後の収益見通し如何によっては法的な倒産手続ではなく、メインバンクなどの主要債権者や取引先などの任意の協力が得られるようであれば、私的整理の中で負債のある程度の猶予・減免を得つつ、資本参加や営業譲渡などのスキームを組み合わせて支援することも可能になるでしょう。」
*事業提携、営業譲渡、株式取得、合併、会社分割、株式交換、株式移転
このような経営危機に瀕している企業の再建だけでなく、最近の経済社会の趨勢の中で、不採算部門の切り離し、経営資源の集中と効率化、新たな企業グループの形成などの観点から、いろいろな分野で活発に事業再編が行われており、そのためのスキームとして、a)アウトソーシングその他事業提携、b)営業譲渡、c)株式取得(これには既存株式の譲受、新株の第三者割当などがある。)、d)合併、e)会社分割、f)株式交換、g)株式移転、などが利用されているということです。これらが種々組み合わされて、実際の事業再編が推進されているということです。
事業提携は従前から外注やOEM、代理店など種々の形態がありますが、最近は単なるコストダウンを目指したものではなく、全体としての経営資源の集中・効率化、ブランド戦略など非常に戦略的な意味をもって仕組みが作られることが多くなってきているようです。
営業譲渡では引き継ぐ資産と負債を限定でき、生きた事業を従業員ともども承継できますが、個々の移管手続を行う必要があり、場合によって関係者の同意を個別に取りつける必要があって、かなり面倒な面もあるということです。
合併はこれに対して全ての資産と負債及び契約上の地位が承継されるもので、ある意味簡単ですが、相手先の財務内容等に問題があると大きなリスクが伴うということです。
株式の取得の方法の場合、当該企業の経営に対してどの程度の支配力を有することにするのか、会社の真の姿に応じて株式の適切な評価ができているか、新株発行手続は適法に行われているか、などという点を慎重に検討する必要があるということです。
会社分割(平成12年商法改正、平成13年1月から施行)はごく簡単に言うと、会社の事業部門を切り離して子会社化(物的分割)あるいは兄弟会社化(人的分割)できる手続、株式交換は相手先の株式を買収する対価として当社の株を相手先の株主に与える手続、株式移転は自社の親会社となる持株会社を形成する手続(株式交換・移転は平成11年商法改正)ということです。これらは従来も別の方法で可能ではあったものの、煩雑な手続や資金手当てが必要であったのを、最近の商法改正でより簡潔な手続と特別の資金手当てなしに柔軟にできるよう、新たに制度化されたものということです。
*公認会計士・税理士の協力が必須
「いずれにしても、この種のプロジェクトを推進するためには会計や税務の専門的検討は絶対に必要ですから、是非とも公認会計士さんや税理士さんにも依頼をして初めからプロジェクトに参加してもらうべきです。特に後になって実は財産は思ったより少なかったとか、知らないところで隠れた債務があったというのでは困りますし、思わぬ課税問題が生じても困るわけですから、資産・負債の内容の真実性・正確性の確認や税務問題の検討なども非常に重要なことになり、専門的な助言を受けることが必要です。」
*事業再編の検討
「やはり、事前の情報収集と検討が相当に必要ですね。」
「そのとおりです。」
「ところで、先ほど事業再編のお話がありましたが、当社も実はコンサルティング事業部門と、システム開発事業部門、それからパソコン周辺装置事業部門の、3つの部門があり、これらをそれぞれ分離して子会社化して独立採算としたいと考えています。また他方では、それぞれの事業部門で他社との事業共同化を推進して競争力の強化を図って行きたいという希望があります。」
「これは先ほどちょっと紹介しました会社分割や株式交換などで対応できる部分があるのではないかと思います。」
「具体的には?」
*会社分割による子会社化〜新設・物的分割
「従来は会社の一事業部門を分離し子会社にしようとしますと、100%出資の子会社を設立し、当該事業部門の営業を現物出資するとか、設立完了後に営業譲渡するとかの方法が取られていました。しかし、これはいわゆる変態設立事項ということで裁判所が選任する検査役の検査を受けなくてはならず、それに相当の費用と時間がかかることが多く、そのうえ営業譲渡ですと買受代金の手配が必要でした。これに対して、会社分割ではより柔軟に子会社化が図れるようになります。いくつかの形態がありますが、ここでは物的分割で新規に子会社を設立する形態に絞って申し上げますと、会社が分割する事業等に関する分割計画書を作成して株主総会に諮り、特別決議(発行済み総株式の過半数の出席かつその3分の2以上の賛成)を受けます。そして子会社が新設される訳ですが、その子会社が発行する株式全部が分割会社である親会社に割り当てられ、100%子会社が設立されるというものです。検査役の検査や営業譲渡の代金の用意などが不要になります。なお、分割によって不利益を被る債権者については一定の保護手続が定められ、また分割に反対の株主は株式の買取請求をすることが認められます。また、分割される事業に携わる従業員の処遇についても規定がされています。」
*株式交換による他社の事業の統合
「株式交換というのは?」
「例えば当社がY社を買収するためにY社の全株式を取得する方法によりたいという場合、当社とY社の株主総会の特別決議で承認を受けることで、Y社の全株式が当社に移転し、その対価として当社の株式をY社の株主に取得させるというものです。このやり方であれば、事業を買収する当社は、営業譲渡を受けたり株式を買い取る場合と違って特別の資金手当てをする必要がありませんし、個々の株主から株を買い取る必要もないなどのメリットがあります。なお、この場合も反対の株主には株式買取請求権が認められます。」
「ただ、その場合、Y社や当社の株式をどのように評価するか、その上でどの程度の株を与えるかという問題がありますよね。」
「まさに、その点が重要な点でして、慎重な専門的検討が必要です。」
*株式移転による持株会社の設立
「株式移転というのは?」
「これは例えば会社の株式全部を取得する持株会社を作る制度で、例えば当社の株主総会の特別決議で株式移転を承認することにより、当社の親会社が設立され当社の株式は全部親会社に移転し、その代わり親会社の株式が当社の株主に割り当てられることになります。このような種々の柔軟な制度が新しく作られ、最近ではこれらを更に複雑に組み合わせて事業の集中やグループ再編などが積極的に行われるようになっています。」
これらの事業再編を遂行する場合、ケースによっては証券取引法や独占禁止法、あるいは各種業法による手続を取らなくてはならないことがあり、個別に検討が必要ということです。
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今回の打合せは短い時間でのものでしたので、Y社の再建支援の問題も含め更に情報の収集と分析検討をした上で、Lさんにアドバイスを貰いながら進めたいと思います。
(36話おわり)
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